医師 黒木 弘明

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二〇二四年 七月二七日(土)

綴りごと 想いごと

お話を聴く

 

「何をして良いのかが分からない」と言う人が、

仮に今、貴方の前に居るとしましょう。

 

 

その人を前に貴方は何をしますか?
その人が分からないと言っているから
「じゃあ、こうすれば?」
「ああすれば良いのよ」
と言う人もいるかも知れません。

 

 

でも不思議ですね。
そういう人に答えとなるような
助言をしても、殆どの場合
聞き入れてもらえません。

 

 

なぜでしょう?
それは求めてないからです。

 

 

でも不思議ですね。
「何をしたら良いのか分からない」
と言うのだから、その人はきっと
「どうしたら良いのか教えて欲しい」
と言っていると思ったのに…

 

 

実は、ここに本人以外による、
『読み替え』が発生しています。

 

 

「どうしたら良いのか分からない」が
すなわち「どうすべきか教えて」
とは限らないのですよ。

 

 

別の意味かも知れません。
たとえば

 

 

「もう頭の中がパニックだよ!」
「確実に楽になる方法はないのか!」
「独りで考えるのが辛いんだ!」
「今、この瞬間楽になりたいんだ!」
「独りで生きるのが怖いんだ!」
「お話を聴いてほしいんだ!」

 

 

など、沢山の可能性があります。
その人が言いたいことはが何なのか?
それは更にお話を伺ってみないと
分からないことです。

 

 

だから、お話も聞かずに
勝手に「読み替え」をして
サッと助言や答えだけをあげても
その人の気持ちは収まらないのです。

 

 

更に(私も含めて)殆どの人は
自分が言いたいことを
端的に適切な言葉に変換して
表現することが上手ではありません。

 

 

自分の中にある言葉が
必ずしも、今の自分の気持ちに
ぴったりな言葉とは限りません。

 

 

だから、とりあえず、
自分の気持ちに最も近そうな
言葉を自分の語彙の中から
選んで、取り出して、喋りますが
それでも大体誤差があります。

 

 

言葉と気持ちの間に誤差がある限り、
その人が本当に言いたいことが
分かりませんし、誤差のある言葉を
毎日のように遣っているうちに
その人本人も自分の本当の気持ちが
分からなくなってしまうのです。

 

 

ですから、まず大切なことは
その人が今、本当に求めているものは
何なのか?を確かめることです。

 

 

それがお話しを聴くという作業です。
これによって、その人本人でさえも
分からなかった『自分の気持ち』が
露わになってきます。

 

 

人の助言を聞かない人、あるいは
人のお話しを聴けない人の多くは
「話しを聞いてもらいたい人」か
「自分の気持ちが分からない人」
である場合が多いのですが

 

 

どちらにしてもお話しを聴くのです。
すると、何らかの扉が開きます。

 

 

お話を聴く対象は他人に限りません。
自分の体の声、自分の脳の声、
自分の心の声、自分の魂の声、
彼らも聴いてほしい声があるはず。

 

 

兎にも角にも、何をしても無駄、
ということはありません。
何かをすれば必ず何かが動きます。

 

 

私たちは皆、物語(宇宙)の中を
生きているのですから。
まず話してみる、まず聴いてみる、
この辺から始めてみませんか?