医師 黒木 弘明

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二〇二四年 五月五日(日)

綴りごと 想いごと

自愛の理由

もう何回も書いたり申し上げたりしておりますが、
なぜ自分を大切にすることが大切なのか?


たとえば、あなたが
素晴らしい技や力を得たとします。


もしもその時、あなたが
自分を大切にするということを
習得していなければ、どうなるでしょう?


あなたはその技や力を
正しく扱うことができるでしょうか?


正しいというのは、
他人や自分以外の命を傷つけない
という意味に加えて、
自分を傷つけないということです。


怒れば自分が傷つきます。
悪口や陰口は自分を傷つけます。
求めれば出口の見えない欲の扉を
開けることになります。


自分を大切にしていないということは、
自分の大切さが分からないということであり、
自分の持つ影響力が分からないということです。


自分の持つ力が分からない人が、
技や力の大きさに任せて
それを行使すれば何が起きるでしょうか?


自分を大切にするということは、
自分を捉えるということ、
自分を把握するということです。


苛立ちや怒り、悲しみ、恍惚など
表層的な感情ではなく、その心底に居る
自分を捉えるということです。


自分を捉えるのが面倒で、
自分を大切にするのが厄介だから、
別の手段として、あらゆる技や力を得て、
自分の存在を肯定しようとしたとしても、
正しく使えなければ、結局は自分が傷つくのです。


足し算や引き算を習得していない状態で、
微分積分に挑戦するのは、相当な難易度です。


ギターのチューニングが出来ないのに
いきなりソロ・ギターに挑むのは
かなり大変なことです。


ストレッチ体操もしたことがないのに
初めて出場する大会がオリンピックで
そこで金メダルを取ろうと目論むのは
夢というより幻想です。


巷に溢れる心地よい言葉に頼って
自分を守る鎧を増やしていったとしても
重い鎧を着る自分の足腰が立たなければ
自分が疲れ果て、消耗するだけです。


自分の感情を扱えない状態で、
他人に期待して、自分の思うままに
動かそうとするのも同じことでしょう。


自分の感情や心を捉えられない状態で、
いきなり魂の問題に飛躍しても、
少し無理があるのかも知れません。


まずは自分を大切にしてあげること。
他人があなたを大切にすることを
求めるのではなく、
あなたが自分を大切にすることです。


あなたがあなたをしっかりと見てあげる。
しっかりと離さないで抱きしめてあげる。
あなたがあなたを守ってあげる。
あなたがあなたの信頼できる人になる。


そのことで他者を無闇に傷つけない自分
自分を傷つけない自分を育てる。
そこが平和、安寧の始まりではないでしょうか。


そして技や力の話ですが
本来、全ての人には
何らかの美しい能力が備わっている
と私は感じています。


ただし、それを最初から自分で
把握できていないだけのことで。


能力をつけるというより、
自分を大切にしてゆく中で、
自ずと浮き彫りになってくるもの、
浮かび上がってくるものが
その人に備わった力ではないか?
と感じています。


欠けているものを補うだけではなく
自分の中に備わっているものを大切に。
あなたという無限の資源を大切に。