医師 黒木 弘明

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二〇二四年 五月三日(金)

綴りごと 想いごと

育てる

お子さんのご相談を受けたこともあります。

「集団生活ができるか?とても心配」とのこと。


ご両親がお子さんを連れて来られました。

緊張しているお子さんに私が「こんにちは♪」というと、

お子さんは私の目をしっかり見てくれましたが、

親御さんが「ほれ!ちゃんと挨拶しなさい!」

といきなり叱咤されるものだから、私は

「いえいえ、お母さん。待ってください。

この子は今、僕にちゃんと挨拶してくれましたよ。

言葉じゃなくて心の中の声で挨拶してくれましたよ。

この子はこれから言葉を出すところでしたから」

と申し上げました。


程なくしてその子が、

応接間に飾ってあるテディベアを使って

キャッキャ!と遊び始めました。

すると親御さんが

「こらっ!それは高価なものだからダメよ!」

とたしなめるので、私は

「いやいや、大丈夫ですよ。

この子は力の加減を知っています。

この子の遊び方を見ればそれがよく分かります。

大丈夫ですよ」と申し上げました。


その後、ご両親のお話を

それぞれ個別に伺いました。

子育て以外にも心配事がありそうでした。

まぁ、親だって人間ですから、当たり前です。


そして、お子さんを連れて

近所の公園に行くことにしました。

外に出ると、その子は力一杯走り始めます。

すると親御さんが「こら!待ちなさい!」

というものですから、私は

「いえいえ大丈夫で〜す。

私が一緒に走って着いて行きますから」

と申し上げました。

私はスポーツは得意ではありませんが、

突然の子どものダッシュにはついて行けるのです。


公園でその子は汗だくになって💦遊びます。

遊具を変えるたびに「ねぇ〜こっち見て〜♪」

とせがみます。親御さんたちはクタクタなので、

あまりついて行けない。代わって私が

その子の動向を注視しています。

子ども(人間)の中には

「自由にしたいという願望」もありながら、

なおかつ「その様子を一緒に経験して欲しい」、

「自分の世界を(自分の世界に入って)

一緒に見て欲しい、共有して欲しい、

理解して欲しい、」という願望もあります。


しばらく遊びました。お子さんの表情は爽快です。

親御さんは当初「この子は挨拶ができないから、

それで第一印象を崩して、集団生活に入る

キッカケが掴めないのではないか?」

と心配されてましたが、公園の帰り道で

お巡りさんに向かって、その子が

「こんにちは〜♪♪♪」

と元気な挨拶をしました。

これにはご両親も驚き、ご安心なされたようです。


そんな感じです。


子育てとは「子どもを育てること」と

多くの方がお思いですが、

『子どもが(周囲を)育てる』

という側面があるのを忘れないでください。


子どもにしても、部下にしても同じです。

親が育てる、上司が(上から目線で)育てるだけでは

上手くいかないのは、もう皆さんご存知でしょう。


指導する側の考える「あって欲しくないこと(怖れ)」を

過度に避けようとして指導していると、

それは相手に怖れを投影・移入することになります。

その相手が素直な子(人)であればあるほど、

指導者の怖れはそのまま結果に反映されます。

こうして指導者の「起きて欲しくない事(怖れ)」が

具現化するのです。これは果たして、

子ども(部下)の能力の問題でしょうか?


躾と、指導と、信頼関係の構築は全て別物です。

同じく、組織における

人財採用・人財定着・人財育成も全て別物です。

親が子から学ぶ、上司が部下から学んで

自らを省みる所が、真の教育のスタートです。


昨今はあらゆる所で、様々な情報が巧妙、

かつ狡猾に飛び交うので

(見ている人の欲求や不安が刺激されてしまうので)

皆さん飛びつきがちですが、

メソッドや理論だけではなくて、

外せない大切なポイントは、

やっぱり心の姿勢なのです。