医師 黒木 弘明

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二〇二四年 五月九日(木)

綴りごと 想いごと

生きるから活きるへ

 

貴方という存在をふんだんに活かしたら
きっと貴方は楽しいのではないか?と思った。

 

 

しかし、貴方の周りを既に様々な入れ知恵が囲んでいた。

その入れ知恵に貴方は振り回され、疲れ果てていた。
貴方は入れ知恵の示す幸せに向かって頑張ってはいたが、
楽しくはなさそうだった。むしろ悲しそうだった。

 

 

口では大丈夫というものの、
その瞳には枯れつつある涙が見てとれた。
貴方の体がきしむ音が、私には聞こえたが
貴方は風の音と言って、それを聞かなかった。

 

 

扉の開いた部屋なのに貴方は
窓を開けることも外に出ることもしなかった。
出来なかったのだろう。それはまるで
見えない鎖に繋がれているかのように。

 

 

誰かに聞いた話、
みんながこう言っている、
一般的にはそうなっている、
昔から相場が決まっている、
今さら変えることなどできない、
他に道はない、

 

 

これらは貴方に食い込む見えない鎖だ。
迷信、盲信、認知の歪み、毒親、トラウマ、
生きにくさ、傷つきやすさ、脳の形、
呼び名は様々だが、絶望とは呼ばない。
むしろ希望の温床と私は呼ぶ。

 

 

だからこそ貴方は生きていた。
いつか報われるのではないかと信じて
部屋の中に座り込んで待ち続けていた。
しかしその様子は、活きているとは言えなかった。

 

 

自分を活きるために生きよう。
身も心も疲れ果てているじゃないか。
それならばまず、自分を愛し直そう。
それが自分の世話だと私は言った。

 

 

そして自分の中にある数々の入れ知恵を
もう一度自分の目で見直そう。
貴方を苦しめる幾つかの飛躍した論理に代わる、
自分だけの幸せの定義を自分の手で建て直そう。

 

 

歩けないなら助けを求めることが
貴方の希望の始まりとなる。
独りで行けとは誰も言ってない。

 

 

自分をふんだんに活かそう。
自分を活きよう。
まだ希望はある。