愛か怖れか
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そういえば以前の僕は、自分の未来を怖がっていた
そんな時期があったっけな。
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最初は何となく落ち着かないだけだったが、
生活とか仕事とかが忙しいからだと思っていたし、
そんなもの、放っておけば収まると思っていた。
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しかし一向に落ち着かない。
ある時、ふと自分で気づいた。
「あれ?僕は何かを怖かっているな?」と。
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自分が何かを怖れていることは分かっても
一体何を怖れているのかまでは、
皆目分からなかった。
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自分が何を怖れているのか?
僕を怖れさせる奴は誰なのか。
その正体を突き止めてやる…
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と息巻いても全く見つからなかった。
というか、探すことさえも怖かったのだろう。
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僕は何かを怖れていたし、
何かが僕を怖れさせていたが、
怖くてそれ以上、踏み込めなかった。
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それでも自分からだけは目を離すまい、
と思って自分の様子を見続けてきた。
すると次第に、ある事実が明らかになった。
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怖れが強まる時、僕(彼)は怒っていた。
怖れが近づくと、不機嫌になっていた。
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そう、不機嫌や怒り、違和感に心配と不安、
これらは怖れが近づいていることを知らせる
アラーム音のようなものだった。
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アラーム音が鳴る度に僕(彼)は何かを怖れて、
どこかへ逃げようと走り去っていたので
その僕(彼)を自分で追いかけて行った。
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そこで僕は僕(彼)を目撃した。
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怖くなった時、彼は自分の心の中の
深い森の中に走って逃げ込んでいた。
森の奥にある大木の中の洞穴・樹穴の中で
体操座りをして、怖れが通り過ぎるのを
ただ独り震えながら、涙を堪えながら待っていた。
助けを呼ぼうともしていたが、怖くて声も出ず
仮に声が出ても、森の深さで誰にも声が届かない
と思って諦めていたようだ。
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彼が怖れていたものは色々あった。
僕はその一つ一つを取り去ることで
彼の怖れを無くしてあげようとしたが
取れば取るほど、次から次へと出てくる。
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この作戦は間違っていたようだ。
やはり彼と直接話しをしよう。
そう思って僕は彼の所に行くのだが、
彼は、そう簡単には心を開かない。
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「君は僕の一番近くに居たはずなのに
家族、勉強、仕事や社会を口実にして僕から逃げて
僕をこんなにも長く独りにさせたじゃないか!
この森に入ることができるのは君だけだったのに!」
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そう彼は言った。
僕には、うなづくしか出来なかった。
それでも彼が心を開くまで
僕は彼の森の中に通い続けた。
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どれだけ時間が経ったかは分からないが、
ある時、僕と彼の間に繋がる通路が
できていることに、僕は突如として気づいた。
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彼が感じていることが
彼が言わなくても、彼が隠しても
僕には分かるようになったのだ。
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そこで彼が何を怖れていたのかが
ようやく分かった。
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それは彼自身の未来であった。
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未来のことが不確かで分からないから
彼は不安を感じ、困惑していた。
未来が把握できない自分に自信を失っていた。
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彼は、未来・未知に対する怖れを無くす為に
未来を予測しようとしていた。
知識や経験や努力や情報を詰め込むことで
未知を既知にして、未来を予測しようとしていた。
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しかし、そんなことをすればするほど
彼は主体性と自分軸からかけ離れてゆき
その結果、どんどん未来が怖くなっていた。
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そこで僕が言った。
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「ねぇ僕。そんなに焦って
君の未来を埋めなくても良いんだよ。
君の未来を決めるのは
知識や予言や世界情勢ではないんだよ。
君自身なんだよ、分かるかい?
君が決めて良いんだよ。
さぁ、僕の手をとってこの樹穴から出て
僕と一緒に歩こう。
そして君の未来の話しを聴かせておくれ。
一緒に未来を描いてゆこうじゃないか。」
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すると彼は泣きじゃくりながら
大きな樹穴からゆっくり出てきて
僕の手を強く握って、僕に抱きつきながら
本当にゆっくり一歩ずつ歩き始めた。
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今彼はこう言う。
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「怖れを体験したことで愛が分かったよ。
とても良い体験だったな。
僕が怖れていた未来。
その未来はもう来ているんだ。今ここに。
僕の手のひらの中に未来があり、
今この瞬間に僕は未来を生んでいる。
素敵な未来を生み出したい。
素敵な未来の地球を生み出したい。
それが最大の僕のアート作品になるだろうし、
この遊びが最も人類に貢献することになるのさ。
この遊びのルールは簡単。
愛か?怖れか?
全ての瞬間でどっちを選ぶか?
どっちを表現するか?
ただそれだけなんだよ(笑)。」