医師 黒木 弘明

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二〇二四年 四月一六日(火)

綴りごと 想いごと

師走の感謝

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お正月を迎える前に
あなたは何をするだろう?
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私は感謝をする。
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感謝には
言葉にする感謝と
行いによって表す感謝がある。
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ありがとう、言って伝える感謝と
ありがとう、だけじゃ伝わらない感謝がある。
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たとえば自分の体。
ありがとう、と言うだけでは
体にとっては不足かもしれない。
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だからせめて
一年間生きてくれたこの体を
感謝を込めて丁寧に洗おうか
じっくりゆっくり湯船に浸かろうか♨️
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「今年もありがとうなぁ」
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と私が言っても
もしも体が反抗期だったとしたら
きっとこう返されるだろう。
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「ありがとう、ありがとうってな
一体なんに感謝しとんの❓
本当に感謝してるの❓」
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子育てと同じである。
学校に行く理由、勉強する理由
片付けをする理由、行儀良くする理由
それらをこちら側が持ち合わせていないと
逆襲に遭ってしまう。
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幸い私は、自分の体が
反抗期であっても即答できる。
むしろ問答は私の得意分野である。
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「私が生きることを
君が体として助けてくれたことに
私は感謝しているんだよ、ありがとう」
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一瞬、体はひるむが
すぐさま逆襲にかかる。
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「ふん!知ったようなことを。
じゃあ、何で生きることが大事なのよ!」
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「生きることで様々な経験ができる。
どんな経験でも素晴らしい価値がある。
体験できることで分かることがある。
体験によって私は豊かになるからね。
だから君に感謝しているんだよ」
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「そ、そうなのか…そっか。
そ、それなら良いんだよ、別に」
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体は恥ずかしそうに
照れながら納得した様子だ。
可愛いね。
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しかし次の瞬間
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「ちょっと待て!
俺は言葉には騙されないぞ!
お前本当に感謝してるのか?」
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という声がする。誰だろう?
姿は見えない…のではなく
声の主はあの人であった。
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「ふん!俺だよ俺!
風呂だよ、オフロ‼️
俺は丸裸のお前を知ってるぞ‼️」
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そう、そこにはお風呂師匠が居た🛁
師匠は言葉では済まされない。
だから私は定期的に、いや、比較的は頻繁に
お風呂師匠を洗って差し上げているつもりだ。
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「ふん!お前の目は節穴か?
その眉毛の下についている黒い玉は
何のためにあるんだ?しっかり使え!」
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入浴中は眼鏡を外す私は強度の近視で
ぼんやりとしか物が見えない。
その状態でお風呂師匠を洗っていた。
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「ふん!お前の感謝はその程度か?
お前は見える所、見える物にしか
感謝しない太刀なのか?
日々お前を支え続ける無数の存在、
無数の目に見えない存在を知らぬのか?」
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そう言われた師走の今、
私はお風呂師匠と向き合うために
最も気の入った眼鏡をかけた。
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するとどうだろう?
あらゆる所が掃除を待っているではないか。
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このままでは、新年は迎えられないと思った。
新年は来ても他ならぬ私の「新年を受け取る準備」
が出来ていないと思った。
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「お、お風呂師匠。失礼しました。
今から私の今年の感謝をご覧にいれます」
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いつもだと歯ブラシを如意棒の様に使い
掃除をする私だが、今年は仲間が足りない。
そこで、歯間ブラシと歯間ピックを迎えた。
まるで沙悟浄と猪八戒を迎えた気分だ。
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掃除というものは、すればするほど
更なる不浄な箇所が浮かび上がるもの。
行けども行けども道は遠のくのだ。
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「これじゃ、キリがない。
終わりが見えない!」
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私の体が文句を言う。
私は即答する。
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「掃除は洗い終えるものではないよ。
掃除は感謝を表すものなのだよ。
感謝に終わりなどないのだよ。
無菌状態の人間など居ないのだから
汚れをゼロにするのが目的ではないんだ」
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シャワーがしょっぱい🚿
違う、これは汗だ💦
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「いやいや、諸君。
諸君の感謝は良くわかった。
もうその辺で構わないから」
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とお風呂師匠が声をかけるのと
私が切り上げるのは同時であった。
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体が反抗期だったかどうか?
お風呂師匠がそう言ったのか?
それは証明のしようが無い。
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しかし、私はあらゆるものの中に
命を感じる、魂を感じることがある。
だから、私を見護る命に向かって
今日は無性に感謝を捧げたくなった。
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それが風呂掃除だったというだけの話。
しかし、賢明な読者ならばお分かりだろう。
感謝とは口だけではないことを。そして、
目に見えない部分に対して
敬意を払う感謝の大切さを。
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お正月とは只の暦、形式ではないと考える。
新年を創り、迎え入れるのは
あくまでも自分の所作であると考える。
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2時間に及ぶ汗だくの風呂掃除の後
正月飾りを買い求めた私の話は以上。