医師 黒木 弘明

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二〇二四年 四月三〇日(火)

綴りごと 想いごと

修復と再習得

 

イラっとしたり、怒りを感じた時は

「自分の心が傷ついているサイン」と、

前回の投稿で申しました。

 

自分の心が傷ついているから、もしくは
未修復の心の傷がうずいているから、
貴方の感情が揺さぶられる…だとしても、
もしも、誰かが貴方の心の痛い所を
絶え間なく刺激してくる場合には、
貴方の心の回復も修復も間に合いません。

 

つまり、貴方の心を乱す人、
貴方が苦手に感じる人と言うのは
貴方の心の痛い所を突いてくる人、
ということになります。

 

その人と接する度に、回復途中の
貴方の心のカサブタが剥がれ、
心の回復・修復が追いつかないのです。
しかも、そういう人に限って貴方の
身近に居て、容易には遮断できない所に
居たりしますね。さてさて困った。
この場合はどうしましょうか?

 

理想としては、貴方が相手に事情を話し、
相手に理解をしてもらった上で、
貴方と相手との適正な距離感を
再設定し直すことを目指す訳ですが、
ここに幾つかのハードルがあります。

 

最も怖れられているハードルは、
相手が貴方の事情を、貴方が望むようには
理解してくれないかも知れない、
という怖れでしょう。

 

ですが、このハードルは実は、
多くの人が怖れるほど重要ではありません。
なぜならば、貴方が真摯に事情を打ち明け、
それが通じないのであれば、それが結論。
その人には通じないのですから離れる、
どうあっても離れる、話は明瞭です。

 

この場合の天王山はどこかと言うと、
貴方が自分の言葉で、相手に対して、
真摯に、貴方の事情を説明できるか?
という点です。

 

それにはまず、貴方が貴方の心の事情を
把握していることが大切になります。
これがまず容易ではないのです。

 

自分が何に傷ついていたのか?
何が自分の心の傷に抵触するのか?
心の傷がうずくと貴方は
どんな反応を示してしまうのか?

 

これを把握するのが、
全くもって容易ではありませんので、
第三者の何らかの手助けは必須です。

 

仮に貴方が、深層心理分析や占い、
更には霊視のようなものを受けたとしても、
問題はそれが、当たるか外れるかではなく、
その結果を貴方自身が深いレベルで理解し、
受け容れることができるかどうかです。

 

自分を把握する、自分を受け容れる、
まずここが最初の山場になります。

 

そして次の大きな山場は、
仮に貴方が自分の状況を把握したとしても、
それを自分の言葉で伝えることができるか?
自分の想いを言語化できるか?そして
真摯に相手に伝えることができるか?
という点です。

 

言語化は、個性の得意・不得意が
出やすい領域に思われがちです。
口達者な人は言語化が上手く見えますが、
言葉を吐き出すことは出来たとしても、
相手に真摯に伝わる言葉と態度を用いる、
となると話は全く別です。つまり、
殆ど全ての人が得意ではありません。

 

このように既に大きなハードルが
立ちはだかっているのですが、
貴方の本当の癒しになるのは、
相手との話し合いの結果ではなく、
話し合いまでの過程の方です。

 

まず貴方が貴方の心の事情を
自分なりに把握しようとすること、
そして自分なりに言語化しようとすること、
結果を怖れず一つずつ行動すること、
この過程こそが自分のお世話なのです。
これこそが力強い自愛なのです。

 

相手が理解してくれるかどうか?
そんなことは分かりませんし、
予期予想しても良質な答えは出ません。
大切なのは自分への愛、自分を学ぶこと。

 

もちろんこれは簡単とは言い難く、
手っ取り早いとも言えません。
むしろ誰しもが苦手に思う遠回りの道です。
時間も手間暇もかかります。

 

だからです。
だからちょうど良いのです。
知らずに深く傷ついた心には
手間暇を充分にかけてあげるのです。
それが心の修復、愛の再習得なのです。

 

何でも結果は分からないもの。
分かってしまったら無意味です。
ならば、森羅万象に委ねましょう。
私たちができるのは、自分のこと。
できる範囲で、できる所まで、
自分のためにやってみましょう。