医師 黒木 弘明

メニュー

二〇二一年 三月一日(月)

綴りごと 想いごと

師走の感謝

*
お正月を迎える前に
あなたは何をするだろう?
*
*
私は感謝をする。
*
*
感謝には
言葉にする感謝と
行いによって表す感謝がある。
*
*
ありがとう、言って伝える感謝と
ありがとう、だけじゃ伝わらない感謝がある。
*
*
たとえば自分の体。
ありがとう、と言うだけでは
体にとっては不足かもしれない。
*
*
だからせめて
一年間生きてくれたこの体を
感謝を込めて丁寧に洗おうか
じっくりゆっくり湯船に浸かろうか♨️
*
*
「今年もありがとうなぁ」
*
*
と私が言っても
もしも体が反抗期だったとしたら
きっとこう返されるだろう。
*
*
「ありがとう、ありがとうってな
一体なんに感謝しとんの❓
本当に感謝してるの❓」
*
*
子育てと同じである。
学校に行く理由、勉強する理由
片付けをする理由、行儀良くする理由
それらをこちら側が持ち合わせていないと
逆襲に遭ってしまう。
*
*
幸い私は、自分の体が
反抗期であっても即答できる。
むしろ問答は私の得意分野である。
*
*
「私が生きることを
君が体として助けてくれたことに
私は感謝しているんだよ、ありがとう」
*
*
一瞬、体はひるむが
すぐさま逆襲にかかる。
*
*
「ふん!知ったようなことを。
じゃあ、何で生きることが大事なのよ!」
*
*
「生きることで様々な経験ができる。
どんな経験でも素晴らしい価値がある。
体験できることで分かることがある。
体験によって私は豊かになるからね。
だから君に感謝しているんだよ」
*
*
「そ、そうなのか…そっか。
そ、それなら良いんだよ、別に」
*
*
体は恥ずかしそうに
照れながら納得した様子だ。
可愛いね。
*
*
しかし次の瞬間
*
*
「ちょっと待て!
俺は言葉には騙されないぞ!
お前本当に感謝してるのか?」
*
*
という声がする。誰だろう?
姿は見えない…のではなく
声の主はあの人であった。
*
*
「ふん!俺だよ俺!
風呂だよ、オフロ‼️
俺は丸裸のお前を知ってるぞ‼️」
*
*
そう、そこにはお風呂師匠が居た🛁
師匠は言葉では済まされない。
だから私は定期的に、いや、比較的は頻繁に
お風呂師匠を洗って差し上げているつもりだ。
*
*
「ふん!お前の目は節穴か?
その眉毛の下についている黒い玉は
何のためにあるんだ?しっかり使え!」
*
*
入浴中は眼鏡を外す私は強度の近視で
ぼんやりとしか物が見えない。
その状態でお風呂師匠を洗っていた。
*
*
「ふん!お前の感謝はその程度か?
お前は見える所、見える物にしか
感謝しない太刀なのか?
日々お前を支え続ける無数の存在、
無数の目に見えない存在を知らぬのか?」
*
*
そう言われた師走の今、
私はお風呂師匠と向き合うために
最も気の入った眼鏡をかけた。
*
*
するとどうだろう?
あらゆる所が掃除を待っているではないか。
*
*
このままでは、新年は迎えられないと思った。
新年は来ても他ならぬ私の「新年を受け取る準備」
が出来ていないと思った。
*
*
「お、お風呂師匠。失礼しました。
今から私の今年の感謝をご覧にいれます」
*
*
いつもだと歯ブラシを如意棒の様に使い
掃除をする私だが、今年は仲間が足りない。
そこで、歯間ブラシと歯間ピックを迎えた。
まるで沙悟浄と猪八戒を迎えた気分だ。
*
*
掃除というものは、すればするほど
更なる不浄な箇所が浮かび上がるもの。
行けども行けども道は遠のくのだ。
*
*
「これじゃ、キリがない。
終わりが見えない!」
*
*
私の体が文句を言う。
私は即答する。
*
*
「掃除は洗い終えるものではないよ。
掃除は感謝を表すものなのだよ。
感謝に終わりなどないのだよ。
無菌状態の人間など居ないのだから
汚れをゼロにするのが目的ではないんだ」
*
*
シャワーがしょっぱい🚿
違う、これは汗だ💦
*
*
「いやいや、諸君。
諸君の感謝は良くわかった。
もうその辺で構わないから」
*
*
とお風呂師匠が声をかけるのと
私が切り上げるのは同時であった。
*
*
体が反抗期だったかどうか?
お風呂師匠がそう言ったのか?
それは証明のしようが無い。
*
*
しかし、私はあらゆるものの中に
命を感じる、魂を感じることがある。
だから、私を見護る命に向かって
今日は無性に感謝を捧げたくなった。
*
*
それが風呂掃除だったというだけの話。
しかし、賢明な読者ならばお分かりだろう。
感謝とは口だけではないことを。そして、
目に見えない部分に対して
敬意を払う感謝の大切さを。
*
*
お正月とは只の暦、形式ではないと考える。
新年を創り、迎え入れるのは
あくまでも自分の所作であると考える。
*
*
2時間に及ぶ汗だくの風呂掃除の後
正月飾りを買い求めた私の話は以上。